京友禅とは?特徴や歴史、魅力を紹介
古都・京都で作られる伝統的な染織品である、京友禅。日本三大友禅の1つとして有名な京友禅は、世界にも誇れる職人技によって作られた華やかな装飾と繊細な色付けが特徴的で、今も多くの人に愛されています。
しかし、実際には「言葉こそ聞いたことはあるけれど、具体的にどんなものなのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、京友禅の歴史や種類、特徴についてまるっと解説します。
「大切な日を華やかな着物で彩りたい」「日本の歴史ある着物を楽しみたい」という方に、京友禅はぴったりです。ぜひ最後までご覧ください。
京友禅について
まずは、友禅や京友禅、日本三大友禅など、友禅にまつわる基礎知識について紹介します。
友禅は京友禅以外にもいくつか種類があり、技法こそ似ているもののそれぞれ特徴が異なります。
- 友禅(ゆうぜん)とは
- 京友禅(きょうゆうぜん)とは
- 日本三大友禅とは
友禅(ゆうぜん)とは
友禅(ゆうぜん)とは、布に模様を染める際に用いられる技法のひとつです。絹の生地に、筆で直接描くように色付けします。
現在は、日本の伝統的な染織品として知られており、友禅の技術を使用した「京友禅」「加賀友禅」「江戸(東京)友禅」は、日本三大友禅として呼ばれています。
友禅の発祥は京都で、安土桃山時代〜江戸時代初期の「辻が花染」、江戸時代中期の「茶屋染め」から発展したという説が有力です。
京友禅(きょうゆうぜん)とは
京友禅(きょうゆうぜん)とは、京都で製造されている友禅です。1976年には、経済産業省指定伝統的工芸品にも指定されました。京友禅は、日本三大友禅の1つとして、今も多くのファンに愛されています。
京友禅の特徴は、独特の染色技法です。「糸目糊」という、糊を使って筆で色付けする際に滲んで色移りすることを防ぐ技術が用いられています。
デザインの面では、「図案には花鳥風月(かちょうふうげつ)や有職文様(ゆうそくもんよう)などの文様調のものが用いられる」「基調の色が決まっておらず多くの色を使用した鮮やかな色合いである」「金銀箔が施されている」ことが特徴です。
京友禅は、製造過程が非常に手間がかかり、技術力が要求されるため、高級な染め物として知られています。京都の染物業者が中心になって伝承されてきた技術であり、現在でも継承され、多くの人々に愛されています。
日本三大友禅とは
日本三大友禅とは、「京友禅」「加賀友禅」「江戸(東京)友禅」の3つのことをいいます。
「加賀友禅」とは、石川県金沢市で製造されている友禅のことです。京友禅とは違い、金銀箔などの装飾はありません。京友禅では文様調の図案が用いられるのに対し、加賀友禅では絵画的・写実的な花・植物の絵柄が採用されています。
「江戸(東京)友禅」とは、江戸で誕生した友禅のことをさします。町人の侘び寂びの影響が反映されていると言われている江戸友禅は、京友禅の華やかさとは反対に、余白部分や渋めの色味が特徴的です。
このように、ひとことで「友禅」といっても、装飾の仕方や色味、与える印象はそれぞれ異なります。次の章では、京友禅の特徴について解説します。
京友禅の特徴
ここでは、京友禅の特徴についてまとめました。
京友禅の特徴は、次の通り。日本三大友禅の中でもひときわ華やかな印象が強い京友禅の特徴を紹介します。
- 文様調の図案
- 華やかな装飾
- 豊かな彩り
文様調の図案
まず1つ目の京友禅の特徴は、文様調の図案です。京友禅の図案には、花鳥風月や有職文様などの文様が採用されています。
花鳥風月とは、自然の美しい景色のこと。有職文様とは、朝廷や公家による儀式・行事の決まり事に沿って、貴族の正装に用いられた装飾模様のことです。これらの図案によって、絵画のような美しさが生まれます。
同じく日本三大友禅の1つである「加賀友禅」では、絵画的な花や植物の絵柄が使われていることを考えると、これらの文様調の図案は京友禅の大きな特徴といえます。
華やかな装飾
2つ目の特徴は、華やかな装飾です。京友禅には、金銀箔や金糸による華やかな装飾が施されています。金銀箔などの装飾がない加賀友禅と比べて、華やかな印象に仕上がるのが特徴です。
このような派手な装飾は、成人式に着用する「振袖」や結婚式で着用する「留袖」、フォーマルシーンからカジュアルシーンまでさまざまな場面で着用できる「訪問着」など、主に「晴れの日」に使用する着物に使われます。
豊かな彩り
3つ目の特徴は、豊かな彩りです。
京友禅は、使用する色味の種類や数を限定しない多色使いが特徴的。隣り合う色同士が混ざらないよう、「糸目糊置」という工程によって防染した上で、色鮮やかに仕上げていきます。
また、模様の中心の色を濃く、外側を淡くぼかすグラデーション技術も特徴のひとつです。グラデーションによって、より華やかな印象になります。
ちなみに加賀友禅では、京友禅とは反対に模様の外側を濃く、中心を薄くするグラデーションを採用しています。
京友禅の歴史
日本の伝統工芸品として現在も多くの人に愛される「京友禅」。
ここからは、京友禅の歴史について深掘りしていきます。
- 京友禅の誕生
- 京友禅の流行
- 型友禅の誕生
京友禅の誕生
京友禅の始まりは、「扇絵師(扇に絵を描く職人のこと)」として活躍していた「宮崎友禅斎」と言われています。
京友禅に限らず日本の染め物自体の歴史は奈良時代から存在しています。室町時代には、豪華な更紗などが対等し、京都で染物文化が盛んになっていきました。
その後、江戸時代に扇絵師である宮崎友禅斎の名をとって、「友禅」が誕生したのです。
京友禅の流行
京友禅が多くの人に知られるきっかけとなったのが、当時の江戸幕府から出された「奢侈(しゃし)禁止令」。いわゆる贅沢品を禁止し、倹約を強制するための命令です。これによって、刺繍や絞りなどの華やかな着物の着用が禁止されました。
そこで広まったのが京友禅。京友禅の技法は奢侈禁止令に抵触しないため、「華やかな染め物を楽しめる」として、当時多くの人々に広まるようになりました。
型友禅の誕生
明治時代に突入すると、これまで職人の手によって手作業で作られていた友禅に加え、型友禅が誕生しました。
型友禅とは、型で染め上げた友禅。これまで手書きで製造していた友禅を、型紙を使用することで一度に大量に染め、製造することができます。
型友禅が生まれたことによって、より多くの人に京友禅が広まっていきました。その後、型友禅・手描は友禅はともに多くの人々からの人気を集め、長きに渡って愛されています。
京友禅の種類
続いて、京友禅の種類を紹介します。
種類は、大きくわけて次の2つ。
- 手描き友禅
- 型友禅
それぞれ、制作工程に違いがあります。早速見ていきましょう。
手描き友禅
手描き友禅とは、その名の通り手描きで製造した友禅のこと。もともと友禅の模様は、刷毛や筆を使用し、1つずつ手描きで作られていました。
色付けから装飾をすべて手作業で行うため、唯一無二の友禅ができあがります。なお、詳細な工程については、後ほど解説します。
型友禅
型友禅とは、型で染め上げた友禅です。手描きではなく型紙を使用して模様をつけることで、同じ模様がついた着物をたくさん生産できるようになります。
ただし、型紙を使用したからといって簡単にできるものではなく、染め作業には熟練の技が必要です。また、一色ずつ染めるため、使用したい色の数分の型紙が必要になります。
京友禅(手描き友禅)の制作工程
続いて、手描き友禅の制作工程を解説します。
工程は次の通り。多くの工程が必要な手描き友禅は、職人が専業分業化しています。
- 図案の作成
- 引き染め
- 下絵(絵付け)
- 糸目糊置(いとめのりおき)
- 糊伏せ
- 引き染め(地染め)
- 蒸し
- 水元(友禅流し)
- 地入れ
- 彩色
- 蒸し・水元②
- 金加工
- 仕上げ
図案の作成
まず最初に、図案を作成します。模様や彩色のバランスも、この工程で考えていきます。
引き染め
「引き染め」とは、あらかじめ染めておくことをいいます。染色を重ねた方が、より深い色味を出せるからです。
下絵(絵付け)
最初の工程で作成しておいた図案をもとに、生地に下絵を描きます。仕上がりに影響しないよう、下絵には水で簡単に落ちる「青花液」を使用します。
糸目糊置(いとめのりおき)
「糸目糊置(いとめのりおき)」とは、隣り合う色同士が滲んで混ざり合わないよう、事前に糊を置いておく工程です。
下絵の輪郭線に沿って糊を置き、水で青花液を流していきます。
糊伏せ
「糊伏せ」とは、地色を染めるときに柄に染料がつかないよう、あらかじめ柄の上から糊をかぶせておくことです。
糊と生地の間に隙間があると、柄に染料が入り込んでしまう可能性があるため、小さなすき間までしっかりと埋めていきます。
引き染め(地染め)
「引き染め(地染め)」とは、柄以外の地色を染める工程です。
大豆の絞り汁である「豆汁(ごじる)」と海藻の「ふのり」を混ぜた液を引き、地色にムラが出ないように対策してから染色を行います。
蒸し
引き染めの後は、生地を蒸します。そうすることで、地色を定着させつつきれいな発色を実現できます。蒸気の温度は約100℃。20〜50分ほど蒸していきます。
水元(友禅流し)
水元(友禅流し)とは、生地に残ったいらない染料や糊を落とすために水洗いすることをさします。
現在は工場の中で行われている水元ですが、かつては京都市内の鴨川や堀川で実施されていたと言われています。京都の川での友禅流しは、街の人々が楽しむ光景となっていたそうです。
地入れ
模様部分に色付けする前に、もう一度ふのりを引きます。これによって、染料を均一に浸透させることができます。
彩色
糸目糊置の工程で防染した箇所に、模様の色を入れます。制作工程の中でも最も重要で、職人の熟練の技術が光ります。
蒸し・水元②
模様の色を定着させるために、先ほど行った蒸し・水元の工程を繰り返します。
金加工
ここまでで生地を染めることができたら、ここからは装飾加工の工程。生地に金箔・銀箔を施していきます。
仕上げ
最後に、仕上げを行います。先に生地幅を整え、仕上げをすれば、京友禅の完成です。
京友禅(型友禅)の制作工程
続いて、型友禅の制作工程を解説します。
型紙を使用した大量生産が可能な型友禅。しかし、決して簡単な工程ではありません。染めには職人技が必要で、制作期間は数か月間を要すると言われています。
- 図案・型の作成
- 地張り
- 型置き
- 糊伏せ
- 引き染め
- 蒸し
- 水元
- 仕上げ
図案・型の作成
手描き友禅と同じく、まずは図面を作成します。さらに型友禅の制作においては、染めのための型もこの工程で作成します。
型は1色につき1枚必要となるため、使用する色の数だけ型を作成する必要があります。
地張り
地張りとは、作業台となる板に糊で生地を貼り付けることをいいます。真っ直ぐに貼らないと柄を合わせるときにズレてしまうため、技術が必要な工程です。
型置き
型置きとは、生地の上に型を置き、色糊を乗せて染色する工程です。
先ほども触れたように、色の数だけ型が必要になるため、色や柄が多い場合はこの作業をかなりの回数分繰り返します。
糊伏せ
糊伏せとは、型で染色したところに糊を載せていくことをいいます。
この後の引き染めの工程で地色を染める際、色が型で染色した箇所に移らないようにするための工程です。
引き染め
引き染めとは、糊伏せをされていない部分に対して、刷毛で地色を染める工程をさします。地色にぼかしを入れる場合も、この工程で行います。
蒸し
染色した箇所を生地に定着させたり、発色を良くしたりするための「蒸し」を行います。
水元
「蒸し」の後も手描き友禅と同様に、生地に残ったいらない染料や糊などを流す「水元」を行います。
一度落とした染料が再び生地に付着することを避けるため、大量の水を使って実施します。
仕上げ
最後の仕上げの工程です。刺繍や加工を施したり、色ムラの補正をしたりします。
まとめ|日本三大友禅・京友禅の魅力
以上、京友禅の歴史や種類、特徴を紹介しました。
着物・染物の代表格ともいえる友禅。加賀友禅・江戸友禅とともに日本三大友禅に含まれる京友禅は、今でも多くの人々に愛されているのです。
伝統工芸品の1つで、加賀友禅・江戸友禅とはまた違った華やかな装飾や色使いなどが特徴的です。また、鴨川にて染料を洗い流す「友禅流し」は地元の人に親しまれている有名な光景です。
職人技が光る、魅力がたっぷりと詰まった「京友禅」。大切な日には、ぜひ着用を検討してみてくださいね。